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All I wish for...

先週日曜日の夕方、家族3人で仙台市地下鉄東西線「国際センター駅」に向かいました。

この駅舎の2階にあるイベントスペース「青葉の風テラス」で行われた音楽コンサートが目的です。

 

このコンサートを企画・主催した直子さんと理恵さんは私たちと同い年。約10年の交際期間を経て、昨年12月にようやく仙台市で導入された『パートナーシップ制度』を通じ、正式なパートナーとして宣誓を済まされました。

 

その記念に、お二人が大好きなアコースティックユニット『Small Butter』さんのライブを地下鉄の駅舎というパブリックスペースで開催し、通行人を含め誰でも自由に極上の音楽を体験し、癒しの時間をみんなで共有しようというなんとも素敵な趣旨のイベントです。

 

直子さんと理恵さんとの出会いは2018年のゴールデンウィーク、約7年前にさかのぼります。

 

アインベルク開店からまだ半年ちょっと、迎える初の大型連休です。ちょうど仙台に帰省する友人もいたので、学生時代の友人たちで私たちの店に集まってご飯でも食べようということになりました。

 

そのうちの一人から、アインベルクに何度も買い物に来ている同級生がいるので、その方のパートナーさんも誘って一緒にお酒を飲もう!と紹介していただいたのが理恵さんと直子さんでした。

 

偶然当時の職場が近くだった理恵さんは、友人の友人が開いた店…と知らずに通ってくださっていたそうです。接客する私もそれを知らないどころか、私と彼女は学部こそ違えど、同じ大学の同じキャンパスで4年間を過ごしていた同窓だったようで、その事実もあってすぐに打ち解け合いました。

 

パートナーの直子さんとは初対面。ちょっと緊張していた様子でしたが、ハムソーの付け合わせにぴったりの手造りのピクルスを持参してくださる細やかな気遣いも。美味しいものには目がないです!という感じで、テーブルに並べたハムやサラミを美味しそうに口に運び、理恵さんと嬉しそうにワインの杯を重ねる姿に、店主はドヤ顔だったかな…。

 

正直なところ、少し緊張していたのは私たちも同じでした。初対面のお二人にリラックスして私たちのハムやソーセージを楽しんでもらえればいいな…という気持ちと、同性カップルの方々と対面で時間を過ごすことが私も店主も初めてだったからです。

 

実際にはそんな心配は杞憂に終わり、わいわい楽しくお酒を飲んだわけですが、とにかくこの二人、飲むピッチが速い!

そんな勢いでグラスを開けて大丈夫なのか~~?!なんて心配をし始めたら、そのうち理恵さんが沈み、そして直子さんまで…。

 

もう夜も深い時間になっていたのでタクシーを呼んで二人を乗せ、まだなんとか意識がありそうな理恵さんに行先を伝えてもらって二人を見送ったのでした。なんだか急な別れ😓

 

その頃二次会と称して国分町 (仙台の夜の街) に繰り出していた店主と友人の旦那さんを呼び戻し、店で反省会を兼ねた三次会をして皆が解散したのは午前何時だったかな…。

 

まだ若かったな~と思うのは、その翌日もお店は普通に営業でした。開店の準備をしていると、エントランスの外に二人の人影が…。

ブラインドを上げるとなんと理恵さんと直子さんが神妙な表情を浮かべて並んでうつむいています。

 

あわてて店主を呼び、二人を店内に招き入れると「昨夜は飲み過ぎてしまって、本当にご迷惑をおかけしました。すみませんでした…」とわざわざ謝罪に来てくれたのでした。そんな必要ちっともないのに!

 

私と顔を見合わせた店主の目が笑っています。こう言っては本人たちが気を悪くするかもしれないのですが、もう最高に面白くて可愛い!!

だって、あんな勢いでめっちゃ美味しそうに飲んだ挙句に、次々と酩酊してタクシーで強制送還された二人。そんな状態からよく朝ちゃんと起きて謝罪の手紙まで書いてきて、めちゃめちゃ几帳面で真面目なんだな~と妙に感心すると同時に、うなだれて立ち尽くしている二人が『GAP』とブランドロゴが全面に入ったお揃いのプルオーバーパーカーを着ていて、なんだかその "ギャップ" がまた可笑しくて、もう二人を抱きしめて笑ってしまいました!

 

そんなことで、一気に彼女たちとの距離が縮まりました。

 

あれから7年も経つのか… という感慨に浸りながら、お二人が招待してくださったコンサートに向かったのが先週のことです。

 

ところでみなさんは『パートナーシップ制度』をご存知ですか?

私はこれまでほとんどその実情を知らず、また大きな関心を寄せてはいませんでした。

 

同性同士の婚姻が法律上認められていない日本で、双方またはいずれか一方が性的マイノリティ(この表現には違和感を覚えますが…)のカップルが自治体にパートナーシップの宣誓をするものです。

2015年に東京の渋谷区と世田谷区で導入されて以来、日本全国の自治体で導入が進み、現在人口カバー率は90%を超えているそうです。

 

私たちが暮らしている仙台市の導入は2024年12月、全国20の政令指定都市の中で最も遅く、宮城県で最初の制度導入自治体になったということです。裏を返せば、今から半年ほど前までは、宮城県では同性カップルに対する行政的支援が基本的になかったということで、宮城・仙台が大好きな私としては正直ショッキングな事実。

 

お隣の山形県では市町村単位を超えて2024年1月には県としてパートナーシップ宣誓制度を開始しています。この違いはなんでしょうか…。ちなみに、宮城県では今年2月に導入した栗原市を入れてもまだわずか2自治体だけです。

 

互いに支え合い長く仙台に暮らしてきたお二人にとっては、仙台市の制度導入は待ちに待ったものだったでしょう。

 

パートナーシップ宣誓をすることで可能になることは自治体により若干違いがあるようですが、仙台市の例を挙げると次の通りです:

 ・市営住宅の入居申し込み

 ・若年・子育て世帯住み替え支援事業

 ・救急搬送証明書の交付

 ・市営墓地における承継、個別集合墓所への申し込み、合葬式墓所の申込、親族外埋葬の届出

 ・罹災(届出)証明書の交付申請

 ・東北地方太平洋沖地震に係る罹災証明書の再交付申請

 ・住まいの復興給付金に係る家屋被害申出書の発行

[仙台市HP『仙台市パートナーシップ宣誓制度 連携制度等一覧』より]

 

正直な感想を書くと、「え、たったのこれだけ……」と愕然としました。現行法上、法的な婚姻関係は結べなくとも、それに準じた権利が与えられるものだと勝手に思っていました。

 

人生においてかけがえのない存在である相手と生活を共にする中で、クリティカルに必要な行政支援とはこんなことではないでしょうか:

 ・法定相続人として認められる

 ・配偶者控除など税制上の優遇措置が適用される

 ・子供の共同親権を持つことができる

 ・国民健康保険の被扶養者になれる

 ・遺族年金の被扶養者になれる

 

ちょっと難しい表現が続きましたが、これらはどれも結婚していれば当たり前に享受できる権利です。一方でパートナーシップ宣誓ではいずれも認められていません。

  

この間、直子さんが大病を患い、入院、手術、闘病生活を経たことで、法的婚姻関係がないと成しえないことがたくさんあると実感したそうです。

片方が危篤になってもパートナーが病室に入ることさえできない、生命維持装置の着脱を判断できない、最後を看取れない(注:柔軟に対応してくれる医療機関もあるそうです)、死後遺産を1円足りともパートナーが受け取れない…。住まいを購入しようにも、同性カップルでは共同ローンを組めないと断られたことも。

 

こんな話を聞いて、自分たちの婚姻関係がなんと恵まれたものだろう…と初めて自覚しました。

16歳で店主と出会い、10年くらい付き合ったからもうなんとなく結婚ですかね…て感じで結婚して。40過ぎでソーセージ屋になるなんて本当に想像もしていなかったけど、でもアインベルクを開いたことで、ようやく運命共同体なんだな…という体感。

この間、扶養だの、手術の際の同意や立ち合い、住宅ローンの借り入れなど、男女間の結婚という法的婚姻関係になければできないことだなんて露ほどにも思わずそれらの権利を行使してきました。

  

パートナーシップが正式な婚姻関係とは同じでないとしても、今回宣誓をしたことはお二人にとって重要な人生の一歩であったと思います。

そのお祝いにと、クローズドではなく、パブリックな場所で通りがかりの人までが無料で参加できる音楽イベントを開催するという、お二人のセンスと粋な計らい。自分が結婚する時にはこんな形で幸せと愛をたくさんの方々と共有しよう…なんて考えられなかった。

  

Small Butterさんによる1時間ほどの演奏会。青空に揺れる外の緑も気持ちよく、優しい歌声と精緻で巧みな演奏が広々とした空間を満たしています。

 

東北大学が隣接していることもあってか多国籍の外国人の方々も。地下鉄の駅舎に偶然居合わせたというようなベビーカーを引いたファミリーも。誰がゲストか通りがかりなのかは関係なし。会場に居合わせた知らない人同士が同じリズムに肩を揺らし演奏に喝采を送るなんとも平和で幸福で贅沢なひと時でした。

 

久しぶりに温かいもので心が満たされた会場からの帰り道、定休日にしかできない店での仕事を切り上げて一緒に来てくれた店主に、どうだった?と聞きました。

 

「すごく良かった。人生ってこんなに豊かなんだって思える時間を自分はしばらく過ごしていなかったって気づかされたよ…」だそうです。

たまには無理やり工房から引っ張り出さないとだめですね!

 

初めて同性カップルを目の前にした娘ちゃん。最初はお二人の関係をうまく理解できないようでしたが、好きになるのに性別は関係あるのか?という話をするうちに、何か気づいたところがあったようで、「私もクラスの女の子を好きになることがあるのかもね」と。

 

思い出すのは私が中学3年生の頃、同じバスケ部の女の子のことをすごく好きになり、ある土曜の午後、部活が終わってもなんだか別れがたくなってしまって、雨の駐輪場で告白したことがありました。今思えばあれは友情の延長線上だったのか、恋愛なんてまだよく分かっていない田舎の中学生でした。

ちなみにその子は「ありがとう。私も大好きだよ」と応えてくれて、なんだかその言葉だけで心が満たされた記憶が残っています。

 

誰かを好きになるって自然なことですよね。年を重ねる中で、これからの人生をこの人と一緒に生きていきたい、と強く思うことは誰にでもあるはず。そうした二人が家族として法的に守られて、穏やかに生きていける社会になるためには、異性間のみならず同性間での結婚を法制化する必要がありそうです。あらためて、結婚は本当に男女間でなくてはならないのか…。私にはその理由が思いつきません。

 

現在、世界の中で同性婚が認められている国と地域は39あり、アジアでは2019年に台湾、次いでネパール、タイでも今年初めに可能になりました。日本はいつになるのでしょうか。

 

「大切な人と一緒に人生を過ごしたい」

こんなシンプルな願いを誰もが戸惑いなく叶えられますように。

 

That's all I simply wish for now.

長文、お読みいただきありがとうございました。